羅針盤 Vol.4 『矢沢永吉』

[翔年の時間]
がむしゃらに走り続けてきて56年。矢沢永吉


僕は日本全国、行ってないところはないってくらいツアーで回りました。
海外もニューヨーク、パリ、ロンドン、どこでも行きました。
でも、全部、仕事です。旅って感覚は僕にはなかったんですね。
でも、ついこの間、初めて一人旅を経験したんですよ。
ちょうどヨーロッパで仕事があって、せっかく足を伸ばしたのに、
このまま東京へとんぼ返りはもったいないなと思いましてね。
スタッフもキャメラマンもみんな帰して、完全な一人旅です。
ロンドン、ベニス、ミラノ。
それと、前から一度乗ってみたかったんですよ、オリエント急行
これに12時間乗って、またチューリッヒに戻って、そこから帰ってきました。


今回一人旅してわかったことはね、
やっぱりただ突っ走るばかりが能じゃないってこと
確かに矢沢は一生懸命に走ってきたんだけど。
僕ってけっこう真面目だからね(笑)。
33年間がむしゃらに走ってきたけれど
これからは、
自分にとって何が本当に必要でなにがいらないものなのか、
しっかり考えないといけない。オンとオフというかね、
自分のために使う時間がもっとあったほうがいい。
いや、前から気づいてはいたんだけど、


今回実践してみてはっきりわかったね。
東京のド真ん中にいると、
肝心なことがわからなくなっちゃうこと、あるからね。


自分でラッキーだと思うのは、僕は大事なところでいい人に会ってるのね
その時はわかりませんよ、ただがむしゃらなだけだけど、
今振り返るとちゃんと必要なときに必要な人に会えてる
そういうところは、なんか守られてるのかなと思いますね。


若い頃はまだ自分が何者かわからないですよ。
この間ね、若い頃のビデオを見返したんですよ。
NHKの『若い広場』って番組です。何度も再放送したっていいますから、
それなりに影響力があったんでしょう。
それで、懐かしいなという感じで見てみますとね、
もう鼻持ちならない矢沢がそこにいるのね(笑)。
鼻持ちならないガキですよ、言い方もなにも(笑)。
『成りあがり』もそうです。
今読み返してみると、もう「わかったわかった」って感じになります(笑)。
でも、その時はそれが正しいと思ったんです。
胸くそ悪いときは「胸くそ悪いぜっ」って叫んできた。叫びながらどうしたらうまくいのか自分の力で探してきた。
青臭いけど、そうやって生きてきたから、今の矢沢があるんですよね。
若いときは青くて当然じゃないんですか。
今の矢沢の感覚を20代の頃から身につけるなんて嘘でしょ。
大嘘ですよ、そんなの。


40歳過ぎてからの矢沢を見てファンになったという方もいらっしゃるそうです。
そういう方たちが認めてくださるのも、
青臭い20代を突っ走ってきて、
がむしゃらな30代をもがいてきて、
ようやく今の矢沢になれたからだと思うんです
これも、一つの旅かも知れませんね。[全文:ANA]